雇用契約における明示条項と黙示条項
新刊

雇用契約における明示条項と黙示条項

志水深雪 著
定価:5,500円(税込)
  • 在庫:
    在庫があります
  • 発行:
    2025年03月25日
  • 判型:
    A5判上製
  • ページ数:
    292
  • ISBN:
    978-4-7923-3453-6
カートに入れる

書籍購入は弊社「早稲田正門店インターネット書店」サイトでの購入となります。

《目 次》

はしがき ⅰ

 

序1

1.契約の本質と雇用契約の独自性

2.雇用契約論の進化の岐路:多様な働き方の時代に

3.日本における雇用契約論の課題

4.令和6 年滋賀県協議会事件最高裁判決がもたらす転機

5.本書の目的

6.本書の構成

 

第Ⅰ編 予備的考察:雇用契約における黙示条項の推定

第1章 イギリスにおける雇用契約論の歴史と現代的展開 15

第1節 雇用契約の歴史的変遷:イギリス社会の影響と進化 15

 1.概説 15

 2.労働形態と規制の変遷 16

第2節 雇用契約に基づく一元化規制 29

 1.雇用契約概念の歴史的形成とその進化 29

 2.雇用関係の礎(コーナーストーン)としての雇用契約 31

 3.労働協約と就業規則の組入れ(incorporation) 33

 

第2章 雇用契約の明示条項とその法的効力 35

第1節 明示条項の定義とその役割 35

 1.明示条項とは何か:基本概念とその特徴 35

 2.明示条項の強力な効力と優位性の根拠 36

 3.明示条項の限界と黙示条項による補完 37

第2節 明示条項の組入れ 38

 1.労働協約の雇用契約への組入れ 38

 2.就業規則類似書面と関連文書の組入れ 41

 3.まとめ:合意外規範の組入れと当事者意思の重視 41

第3節 まとめ 42

 

第3章 雇用契約における黙示条項の推定 45

第1節 契約法における黙示条項の歴史と役割 45

 1.黙示条項の歴史的淵源 45

 2.黙示条項の理論的根拠 46

 3.黙示条項と関連する契約上の概念 50

 4.「関係的契約」と黙示条項:新たな契約解釈の可能性 52

 5.まとめ:黙示条項の意義とさらなる課題 53

第2節 黙示条項の多様性と分類 54

 1.様々な分類方法 54

 2.一般的な分類方法 55

 3.コモン・ロー上の黙示条項 56

 4.コモン・ロー上の黙示条項の推定要件 57

第3節 雇用契約における黙示条項の特質 61

 1.経営特権と雇用契約における黙示条項 61

 2.雇用契約におけるコモン・ロー上の黙示条項 62

 

第Ⅱ編 明示条項の優位性

第1章 明示条項による法的規制の適用除外・放棄 69

第1節 法定労働時間規制のオプト・アウト 70

 1.制度の変遷 70

 2.オプト・アウト合意の締結と取消:明示条項の力とその制限 71

 3.利用実態と制度設計の特徴 72

第2節 「株主被用者制度」:合意による不公正解雇の権利の放棄 73

 1.株主被用者(employee shareholder)とは 73 

 2.導入の経緯 74

 3.制度の概要 77

 4.株主被用者が保有する株式について 80

 5.締結拒否を理由とする不利益取扱い・解雇の禁止 81

 6.株主被用者ステータスの変更・終了 82

 7.株主被用者制度に対する評価 82

 8.株主被用者制度の失敗とその背景 84

 9.まとめ 85

第3節 事前の合意による訴訟の放棄 85

 1.制度の概要 85

 2.締結プロセス 86

 3.内密取扱い(証拠排除)原則と「不当な行為」 87

 4.手続的要件 88

 5.放棄契約と妥協(和解)契約を区別する視点 88

第4節 まとめ 90

 1.明示条項の役割と効果 90

 2.適用除外の範囲と基準の明確性 90

 3.労働者の意思を担保する手続規制 90

 4.シンプルな制度設計とその実務的意義 91

 5.日本法への示唆 91

 

第2章 標準書式契約における明示条項への規制 93

第1節 書面労働条件通知書と標準書式契約の現状と課題 93

 1.書面労働条件通知書 93

 2.標準書式契約の増加と使用者責任免除合意の規制 95

第2節 明示条項への規制:1977年不公正契約条項法による不当条項規制の試み 96

 1.立法趣旨及び関連規定 96

 2.雇用契約への適用の有無をめぐる判例・学説の立場 97

 3.法制度改革委員会(Law Commission)による2005年法案と学説 98

 4.まとめ 99

第3節 明示条項における合意プロセスの規制 99

 1.個別合意の実質化 99

 2.「合意」に対する手続的保障 100

 3.手続的保障の限界と課題 104

 

第3章 まとめ:明示条項の優位性とその限界 107

第1節 明示条項の優位性:コモン・ローにおける正統派の観点 107

 1.明示条項の優位性の背景 107

 2.雇用契約における明示条項の優位性の課題 107

 3.明示条項による黙示条項の排除 108

第2節 明示条項の優位性がもたらす課題 109

 1.明示条項の過度な優位性によるリスク 109

 2.手続的保障の重要性 110

 3.現代雇用契約における変化 110

 

第Ⅲ編 「法による黙示条項」と相互信頼条項

第1章 雇用契約における「法による黙示条項」の具体像 115

第1節 「法による黙示条項」の理論的課題とその限界 115

 1.「法による黙示条項」の不確実性と課題 115

 2.「法による黙示条項」と「事実による黙示条項」の境界 117

 3.曖昧さがもたらす法的リスク 118

第2節 法による黙示条項(黙示義務)の内容 118

 1.体系化の困難 118

 2.学説上の分類・体系化 119

 

第2章 使用者が負う主な黙示義務 125

第1節 被用者の健康・安全に対する合理的注意(配慮)義務 125

 1.コモン・ローと制定法による健康・安全保護のアプローチ 125

 2.コモン・ロー上の義務違反に関する判断基準 128

 3.明示条項の優位性への挑戦 141

第2節 労働者の利益保護における注意義務の拡張:推薦状提供に関連する合理的な注意義務 143

 1.義務の確定 143

 2.義務の発展 144

第3節 まとめ 146

 

第3章 被用者が負う主な黙示義務 149

第1節 服従義務 149

 1.雇用契約における位置づけと範囲 149

 2.「適法かつ合理的な」命令の判断 149

 3.「主たる職務」に関連する命令への服従義務 150

 4.配転命令・残業命令等に対する服従義務 152

 5.服従義務の限界 156

第2節 合理的注意義務 159

 1.使用者財産に対する合理的注意義務 159

 2.第三者を負傷させないための注意義務 160

 3.被用者技能に関する注意義務と被用者の地位 160

第3節 協力義務 161

 1.協力義務の内容と法的性質 161

 2.使用者の事業を故意に妨げない義務 164

 3.新しい技術や技能に適応する義務 166

 4.被用者の職業と協力義務 168

第4節 忠実義務・誠実義務 169

 1.忠実・誠実義務の概念的意義 169

 2.秘密裏に賄賂などの利益を受け取らない義務 170

まとめ 171

 

第4章 相互信頼条項への収斂 173

第1節 相互信頼条項の概念的基盤 173

 1.公法と私法の融合による相互信頼条項の進化 174

 2.相互信頼条項の公式の精緻化 174

 3.「三つのアプローチ」 175

 4.小括 177

第2節 黙示的相互信頼条項の全貌 177

 1.誕生の背景 177

 2.発展:貴族院における承認 179

 3.内容の定式化 180

第3節 相互信頼条項とみなし解雇 182

 1.制定法における「みなし解雇」概念の導入 182

 2.「法定みなし解雇」における判断枠組の形成 184

 3.まとめ 188

第4節 相互信頼条項の発展による使用者の義務の拡大 188

 1.特定の黙示義務の促進:被用者の苦情調査義務を例に 189

 2.懲戒処分と相互信頼条項違反 190

 3.使用者の自由裁量権の行使と相互信頼条項違反 195

 4.明示された裁量権の行使と相互信頼義務による制約 201

 5.小括:適用における特徴 203

第5節 黙示的相互信頼条項の発展と被用者の義務 204

 1.修道院聖歌隊指揮者の相互信頼義務違反 204

 2.一般被用者への適用 206

 3.義務の相互性・相関性の課題 207

 

第Ⅳ編 「法による黙示条項」の形成規範:苦境と葛藤

第1章 「法による黙示条項」の苦境 211

第1節 明示条項の優位性がもたらす矛盾と葛藤:出口の見えない模索? 211

 1.明示条項の絶対的優位性への挑戦の始まり? 211

 2.紆余曲折を経た裁判例の展開 212

 3.明示条項による相互信頼条項の制限・除外が可能かという難問 216

 4.小括 218

第2節 黙示条項の形成規範の曖昧さ 219

 1.雇用契約の解釈における指導原理:Freedland教授による理論構成 219

 2.黙示条項推定における「必要性」の壁:避けることは可能か? 226

 

第2章 「法による黙示条項」の自制 229

第1節 積極的(過大な)義務の否定 229

 1.被用者の黙示的相互信頼義務と「信認義務」の区別 230

 2.黙示条項の制限と明確化:開示義務 233

 3.被用者の名誉・経済的利益を保護する積極的な義務の否定?    243

 4.まとめ244

第2節 「相互性」・「互恵性」の原理による制限 244

 1.「相互」となる黙示的な義務 244

 2.「相互性」から生じる二つの効果 246

第3節 相互信頼条項の「バミューダトライアングル」? 247

 1.前提:相互信頼条項の救済範囲の制限 247

 2.解雇における適用の否定 249

 3.解雇段階と懲戒段階の区別判断 252

第4節 雇用契約条項の解釈と黙示的相互信頼 254

 

第3章 「法による黙示条項」の新たな可能性 257

第1節 「法による黙示条項」の展開可能性と課題 257

 1.信義則と実質的公正・正当な期待 257

 2.人権の守護者としての相互信頼条項 258

 3.「経営特権」概念の後退と手続的公正 260

第2節 多様な働き方と「法による黙示条項」:自営業者等への適用拡大の可能性 260

 

結び:日本法への示唆 263

第1節 イギリス法における「法による黙示条項」:葛藤が示す重要な視点 263

 1.明示条項と黙示条項のせめぎ合いから見える課題と視点 263

 2.「法による黙示条項」の拡大:推定「必要性」が引き起こす課題とその行方 264

第2節 日本法への示唆:合意の再定義と雇用契約論の再構築への展望 265

 1.葛藤の中で堅持される当事者意思:その価値と意義 265

 2.日本における「合意論」の再評価とその意義 266

 3.イギリス法と日本法の「中間地帯」への到達 267

 

事項索引 271